Project of HIPPO 2011【前編】
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【前編】カバが日本に来るまで

2010年9月某日

私達は日々様々な国の業者とやりとりをし、そして国内の動物園ともなるべくマメなコンタクトを心がけています。
そんな中、栃木県の宇都宮動物園の荒井園長と電話で話をしていた時のこと。
『カバが欲しいのですが、御社で輸入はできますか?』という話がありました。
この時、私はまだ知らなかったのですが、その約数週間前の8月18日、同園のマスコット的存在でたくさんの人に愛された歯磨きカバのワタル君が亡くなっていました。
私がこの情報を知ったのは、園長である荒井さんとお話をした数日後でした。

カバが最後に輸入されてから、少なくとも十数年。
検疫施設でも、その当時従事していた人間は一人もいないとのこと。
すぐに現地とコンタクトを取り、私は荒井園長に回答を出しました。
『できます』と。
カバを輸入するとなれば、国内での血統管理外の貴重な新しい血。
種の保存を考え、繁殖を行うとしても血統管理外の個体であれば、血が濃くなり過ぎることを防げます。
国内でももちろんたくさんの動物園がカバを所有しています。
しかし、あえて難しい輸入の個体。
国内外の厳しい法律をクリアし、輸入に漕ぎ着けなければなりません。

最終的に荒井園長から回答を頂き、契約を交わした時には、11月も終わりに差し掛かっていました。
マスコット的な存在であったワタル君が不在となった動物園。
すぐにでも導入したいという強い気持ちを、荒井園長とのお話からひしひしと感じました。
その強い気持ちに全力で応えるべく、“絶対に成功させる”という強い気持ちを胸に、私達はこのプロジェクトをスタートさせました。
宇都宮動物園にカバが来て、たくさんのお客さんと、動物園の方々の笑顔が溢れるように。

2011年3月11日

日本人としては決して忘れられない日となったこの日。
未曾有の大震災、東日本大震災が起こりました。
当社が飼育施設を構える千葉県旭市でも、津波による大きな被害があり、何人もの尊い命が奪われました。
当社の施設は高台に位置しているため、施設自体の被害はほとんどありませんでしたが、2日近くの断水と、1日の停電。
震災時まっさきに心配したのは、現在進めているカバのプロジェクトでした。
この時、既に輸入許可書は揃っており、在日大使館を通し、現地政府との話し合いを進めている最中でした。
震災当日は電話も繋がらず、電気も使えない状況で、テレビを見る事ができず、車に乗り込み、ラジオに聞き入る。何がどうなっているのか、とにかく現状を把握することが先決でした。
震災当日の夜、やっとの思いで入った飲食店のテレビの映像で、濁流に流される家々を見て東北地方が酷い惨状になっていることを知りました。

翌日、電気、水道が復旧し、私は急ぎ大使館に連絡を入れました。
すると、公使が本国に帰国しているとのこと。
察しの良い方なら既にお気づきかもしれませんが、福島原発の事故が大きく関係していました。
この時、各国から日本に在住している外国人の方々に対して、日本から退避するようにとの指示が入っていたようです。
情報がまともに入ってこないような状況で、真実かそうでないのかわからないような情報がたくさん飛び交っていました。
また真実が過大に捻じ曲げられ、この時の私達も、何が真実で何が嘘なのか、判断が難しい状況でした。
この状況がいつまで続くのか、いつ通常の状態に戻るのか…余震が続く中、不安が募ります。
連日、大使館に連絡を入れるも『公使でないと…』と一向に話が進まない状況。
さらに追い討ちをかけるように、大使館自体が震災の影響でしばらくオフィスを閉めるとのこと。
この大震災で、私もかなり頭を悩ませ、苦労しました。
しかし、ここまでの苦労と努力、そして何より本当に楽しみにカバの到着を心待ちにしてくれている動物園の方々の気持ちに応えたいという一身で、この時できる限りのことをやりました。
苦労の甲斐あって、なんとか日本政府と現地政府の話し合いも終わり、いよいよあとは出荷のみ。

6月22日

出荷の準備のため、私達は現地に飛びました。
出国前に、現地と何度も綿密なやりとりをし、スムーズに出荷ができるよう準備をし、いざ現地へ。
ようやくカバとの対面です。
ここまで来るのに、紆余曲折、本当に様々なことがありました。

写真では何度も見ていたカバ達が、もうすぐそこにいると思うと、期待に胸が高鳴ります。
そして6月27日、いよいよ出荷。
現地時間の朝8時からカバを輸送箱に入れるなどの作業のため、現場へ。
箱に入れる作業は、程よい緊張感の中、現地のスタッフの方々の手際良い作業によりスムーズに終わっったのですが、只ならぬ気配を感じてか、カバは少し興奮気味でした。
後はとにかく無事に着いてくれる事を祈りつつ、エージェントにはくれぐれも宜しくと伝え、カバを見送り、私達は現地を後にしました。
そしてカバの到着よりも1日早く日本に戻り、今度は受入の準備です。

6月30日

朝から快晴で気温は30℃。
この暑さでの輸送を心配しつつ、成田空港へ。
制限区域内に入り、極暑の中、到着した飛行機からカバが運び出されるのを今か今かと待ちました。
そしていよいよカバとの再開。
2頭のカバは長旅の疲れを見せていました。
私達はすぐにカバにこれでもかと言うぐらい水をかけ、カバの体力の消耗が一番の心配ごとだったため、なるべく早急に手続きを終えて検疫施設へ。
空港からおおよそ1時間半のドライブ。
その間もカバの体調を気遣いつつ進みます。
その後、無事に検疫施設に到着し、収容。
ここまでくれば、動物園の方々とカバの対面ももうすぐです。